・主人公の一人の場合

 春の日もまだ浅い季節の日曜日。
 僕のありふれた日常。
 そんなところからかけ離れた日常が、今日、この日から始まることになった。
「ごめん、待った?」
 一番近い最寄りの駅に待ち合わせをして、遅れること30分。
 肩で息をしながら、大きな荷物を背負った彼女はようやくやってきた。
 一応、僕と彼女は、付き合っているのだけど、二人とも都合がつきにくく、なかなか会えない日が続いていた。
 そんな僕が、彼女に提案したのは、『一緒に住まないか』ということだった。
 彼女の方も、僕の提案に賛成してくれた。今日、この日に、僕は彼女と同棲生活を始めることになる。
 ……僕の学生時代のときに出逢ってから早2年、変わらない付き合いが続いていた。
 もちろんそれは、健全な意味合いの物。
 まだお互いにそこまで踏み切れず、これまで過ごしてきた。
 今日の日を境に、何か僕たちの間にも進展があるように思えて仕方なかった。


・あるもう一人の主人公の場合
 
「これから……どうするの?」
 繁華街を歩きながら隣にいた彼女が俺にそう言った。
「んー、どうしようかねぇ」
 俺と彼女とは、もう長い付き合いになる。
 二人で住んでいた社宅を追われて、もう2週間近くにもなる。
 それは、俺が社の方針に乗ることが出来ず、の判断からだが。
 実際、住むところも見つけていたのに、改装工事とやらで一週間先送りになり……その日まで宿無しになっていた。
「全く、ついてないよなぁ」
 俺が社を追われる原因も、結局人の尻ぬぐいをしたせいで、実際には責任を取らされた形だ。
 それが悪かったのか、やることなすこと裏目に出て……今に至る。
「……もう、私もお金、持ってないよ」
 ありがたいその言葉に、まざまざと今の俺たちの現状を見せつけられた形になって、思わず溜息が漏れた。
 彼女の友人達にも当たっていく訳にもいかず、どうしようか本格的に途方に暮れかけたとき、俺は一つ心当たりがあることを思い出した。
「そうか……あいつなら、大丈夫か!」
「え……?」
 学生時代、よく遊んでいたあいつなら……俺はそれを確信すると、彼女の手を引いてそいつの元へと向かうことにした。


「というわけで一週間ほど世話になるわ」
「……ホントに、ごめんなさい」
 准也は二人同時に頭を下げられ、何も言えなくなっていた。
 突然尋ねてきたときも、十分すぎるほどに驚いたというのに、加えて事情を聞いてしまった今、無下に追い出すことも出来なくなってしまった。
 幸い、部屋はいくつか余っている。
 隣で微妙に微笑んでいる明里に、後で納得行くまで説明して……今はこれからのことを考えるのに精一杯になっていた。